Ma.K. NIXE ニーゼ完成~撮影しました!

Ma.K.ノベライズ小説化「the SNAKE EYE story」第1章 Snake Pit ~蛇の穴~

Ma.K.ノベライズ小説化「the SNAKE EYE story」第1章 Snake Pit ~蛇の穴~

第1章 Snake Pit ~蛇の穴~

宇宙に浮かぶ無数の人工衛星とその残骸が太陽の光を浴びながら音もなく漂っている。
その残骸のひとつに濃紺のスネークアイがただ一機、取り付いた。
張り巡らされたシュトラールのレーダー網に掛からぬよう月面基地から射出されたスネークアイはデブリを装い、着地のショックでずれた人工衛星の軌道を一瞬のスラスター噴射で修正した。
取り付いたのは二十一世紀後半に打ち上げられた宇宙基地だった。二九世紀の今ではまったく用をなさない宇宙の巨大なゴミだ。基地の基礎部分には紅白のストライプと星の意匠の国旗が描かれている。
それはブリーフィングの情報通りだった。当時、最大の軍事力を誇ったというその国がどうして滅びたのかは知らない。
その下に書かれた「HOPE」の文字はその基地の名なのか、打ち上げた彼らの願いだったのか。
スネークアイはワイヤーで機体を残骸に固定すると太陽光線の当たらない暗闇に溶け込むようにして身を隠した。
そしてコックピット内のパイロットの生命維持のための最低限の電力だけを残し、沈黙した。
それが43時間前のことだった。

ジェスロはうっすらと目を開き、バイザーのディスプレイに写し出された宇宙を観た。漆黒の宙に地球が異様なほどの鮮やかさと大きさで浮かんでいた。取り付いたこの残骸のすぐ向こうは、その蒼い星の重力圏内だった。

持久戦になるのはわかっていた。

コックピットに入ったまま人間はどれだけの時間を耐えられるのか。
作戦前の訓練では閉所への適応力を確認するために兵士の間で「カンオケ」と呼ばれている、ひと一人がやっと入る箱に入れられ、深さ50mの水中に沈められた。貴重な水を節約するために訓練用プールの面積は1メートル四方しかなかった。箱は自分で開けることができるが、そのプールの大きさでは蓋がつかえて自力での脱出は不可能だ。
助かるには外部から「カンオケ」ごと引き上げてもらうしかない。しかし沈められるときに「カンオケ」を吊すワイヤーは切られている。開けても逃げることはできない。
七人の作戦候補生がいた。訓練の条件、状況は前もって全員が知らされている。しかしそれでも四人が訓練途中で箱を開けて、溺死しかけた。三人が72時間を耐えたが、そのうち二人は陸に引き上げると精神に異常を来していた。
それで残った一人であるジェスロにお鉢が回ってきた。
告げられた作戦名は「スネークピット」。訓練から七時間の休養の後、ブリーフィングを受け、出撃した。

地球は環境破壊で気候も生態系も狂い、人は住めないと言われている。しかし、地球にはまだたくさんの人間が生きている。そしてあの蒼すぎる星を巡って戦争はいまも続いている。

「あれがおまえの生まれた場所だ」
初めて月面の戦場に出たとき部隊長だった伯父はそう言ってあの蒼い星の一点を指差した。後でそこがニホンとかジャパン、ハポンなどと呼ばれていることを知った。宇宙からあの小さな島国を見る度に伯父の言葉を思い出した。
しばらくしてまた目を閉じたとき通信が入った。
「2分後、シュトラール護送船団が最接近。繰り返す、2分後…」

ジェスロは目を見開いた。
機体の全電源を入れる。低い唸りをあげてスネークアイが目を覚ます。鼻孔から目一杯酸素を取り込み自分はまだ生きていると確かめる。ディスプレイに次々と情報が表示されはじめ、無辜の闇だった宇宙が意味を持ち始め、戦場へと変わっていく…。
船団の来訪する方角を見た。
何もなかった空間に白い点が現れ、あっという間にシュトラールの船団が目の前を進行していく。ブリーフィングの情報と比べものにならない大船団だ。
「ずいぶん多い。それに戦艦だらけだ。輸送船は確認できない」
無線はなにも応えない。
上からの作戦はいつも奇妙だが今回は話が違いすぎる。
出撃前のブリーフィングでは、輸送船がいくつかと護衛の巡洋艦一隻と聞いていた。
軍事技術の見本市のようなタイタンの最戦線からようやく呼び戻されたと思ったら、ひどい貧乏くじを引いたらしい。

作戦の目的は地球への兵站を断つため、輸送ルートを混乱させるのが狙いだった。
戦闘自体はせず、ただこのルートが安全ではないことを相手に知らしめろ、とのことだった。作戦を指示した司令からは「いい休暇だろう?」とまで言われた容易な任務のはずだった。
しかし、今、目前を進む艦隊は一機のスネークアイなど蚊ほどにも感じない規模だった。
出れば艦隊からの集中砲火を浴びることになる。それでもスネークアイの性能を考えれば艦船の鈍い砲撃が当たるとは思わないが多勢に無勢、万が一、戦艦クラスの一撃がかすりでもすればやられる。
そう考えていたとき機体を衝撃が襲った。
機体にエクサイマーレーザーが当たる特有の甲高い音がした。
衝撃がスネークアイを宙に激しく押し出す。
そしてその衝撃が艦隊のいる前面からでなく機体の後方からのものだとわかったとき気付いた。
「罠!」
すぐに逃げ出した。
艦隊は一斉射撃をこちらに向けてくる。目一杯の速度で砲撃をかわす。人工衛星のさっきまで潜んでいた部分に砲撃で大穴が開いた。
「どうする?」
すぐに艦隊に突っ込んだ。勝算があるわけではない。艦隊のひとつにへばりついていれば、手堅いシュトラール軍は同士討ちはしないはずだ。案の定、戦艦のひとつに掴まると目立った砲撃は止んだ。
「今回はへばりついてばかりだな」
独り言はパイロットの孤独を紛らすのに有効な手段だ、とセラピストが知ったようなことを言っていた。
宇宙の闇に目を凝らす。
ディスプレイの表示がおかしい。さっきの一撃でセンサーがいくつか故障したようだ。後ろからレーザーを浴びせてきた機体をディスプレイを通した目視で探さざるを得ない。
「フリーゲか?カウツか?」
さっきの砲撃で砕け散った人工衛星の細かな破片が飛ひ散っている。その破片が太陽の光を反射してキラキラと瞬いている。
それが時折、機体に当たりコックピットへかすかな音が伝わってくる。
艦隊からの砲撃がすべて止んだ。
「なんだ?」
闇から現れた機体を見て目を疑った。
タイタンでともに戦っていたスネークアイだった。生きているセンサーが数えた機体数は17。自分を入れて18機、シリウス隊全機集結だ。
しかし助けに来てくれたとは、露ほども思わなかった。
作戦名は「スネークピット」
無数の蛇が渦巻く穴に迷い込んだのは自分のようだ。

「ジェスロ、悪く思うなよ」
通信の声ですぐにわかった。フレデリックだ。
「フレッド、シュトラールについたのか?」
スネークアイの群れがゆっくりと包囲を狭めてくる。
撃ってこないのはクライアントであるシュトラールの船を傷つけるわけにはいかないのだろう。レーザーがこちらに確実に当たる位置まで距離を詰める肚だろう。
「へっ!シュトラールにつくわけがねえだろうが。お前はやりすぎたんだよ」
「やりすぎただと?なんのことだ?」
話しながらフレデリックの機体を探す。
見えた!
友軍機に隠れるようにしてフレデリックのディープグリーンの機体がいる。
「相変わらず味方の陰に隠れて大将気取りか、フレデリック」
「ほざけ。お前はシュトラールも俺たちも敵に回したってことだ!くたばれ!」
一斉にスネークアイの群れがレーザーを構える。
一瞬早く、ジェスロはシュトラールの船から離れた。惑星タイタンでは友軍だった同型機の隊列に最高出力で突っ込んだ。このスネークアイなら0.3秒で最高速度に達する。
レーザーの直撃も数発ならスネークアイの装甲は耐える。二発かすった。衝撃とともに甲高い被弾音が機内に響く。
後方でシュトラールの船に17機のエクサイマーレーザーの束が直撃した。左舷が爆発を起こしてその戦艦が大きく傾いた。
あの鑑は沈む。
ジェスロは深緑のフレデリックの機体めがけて突進した。レーザーを撃つ暇はない。そのまま体当たりをしてやる。
「やめろ!」
二機の機内に衝突音がした。フレデリックの機体は体当たりの衝撃で隊列から弾き飛ばされた。
「ジェスロ!てめえよくも!」
フレデリックの声は動揺していた。地球の重力に掴まったのだ。
深緑の機体がスラスターを蒸かし地球の重力から逃れようとしている。が、徐々に地球へ墜ちていく。こうなったらもう誰も引き戻すことはできない。蟻地獄のように地球へ落ちていくだけだ。
しかしそれは、ジェスロも同じだった。勢いのある分、ジェスロの方が地球に引っ張られる速度が速い。
背後からスネークアイ達のレーザーがいくつも飛んでくる。しかしレーザーは重力に引かれ、曲がってしまい当たらない。
学者はレーザーが重力で曲がるのは説明がつかないというが宇宙にいる兵士なら誰もが知っている。
シュトラール艦隊がジェスロを撃たないのは沈む船とそこから脱出する無数のポッドを収容するのに精一杯なためだ。シュトラールは戦死者を出すこと自体に本国からの非難がある。なら戦争などやめればいいのだ。
重力に引かれ機体が徐々に加速していく。
ジェスロもまた必死でスラスターを蒸かすが、どこまで保つか。上方でフレデリックの機体ももがいている。
安全な「外海」にいるシュトラールと傭兵達はもう撃ってはこない。スネークアイの装甲が大気圏突入の摩擦熱に耐えることができないことを知っているのだ。
そのとき目の前を巨大な影が横切った。
43時間の間、身を預けていた宇宙基地の残骸だった。
ジェスロはスラスターの向きを変え、その後を追った。
潜伏中に隔壁が朽ちずにまだ生きていたのを思い出していた。一か八か、残骸を盾にして大気圏に飛び込む。
まだ生きていた残りのセンサーが後方からの機影を捉えた。フレデリックが突っ込んできた。
「ジェスロー!」
「フレデリック!」
二機の距離はほんの数十センチだ。大気との摩擦が始まり、激しく震える機体の左腕に装備されたレーザーを構え、同時に撃った。
フレデリックのそれはわずかに逸れて闇の中に消えていった。
ジェスロのレーザーをまともに受けた深緑の機体は大きく弾かれて上方へと消えていった。
ジェスロは機体を残骸の中へ入れると膨大なプログラムの中から大気圏突入時のマニュアルを機体に読み込ませ、大気圏への入射角を計算させ、機体に地球着陸の指示を出した。

轟音の中、ジェスロは人工衛星に「HOPE」と書かれている何百年も前に滅びたアメリカという国の星条旗をみつめていた。ディスプレイの片隅に拡大して表示しておいたフレデリックの機体もまた遙か上方で大気圏に突入を開始していた。
機体は演算をもとに、スラスターを吹いたり止めたりを繰り返している。
自分もフレデリックももうやれることはない。
この演算は合っているのか?
ジェスロは轟音の鳴り響くコックピットでこのプログラムを作ったメカニックのトメキチのことを思い出していた。

トメキチは偏屈な老人だが、メカニックとしての腕前は傭兵軍内で轟いていた。
その老人が整備した機体で出撃すれば必ず生きて帰ることができると言われていた。そのため月面基地でトメキチに整備を依頼する者は後を断たなかった。
しかし、トメキチは表向き「老い」を理由にして整備数を絞り、気に入った機体にしか手を入れなかった。
ジェスロは整備は自前でやると決めていたのでトメキチの話は漏れ聞くものの整備を依頼するということに興味がなかった。
次の戦場への移動中、輸送船の中でジェスロはフレデリックにケンカを売られた。理由はよくわからない。
ジェスロは5人掛かりで殴られた。途中で上官が止めに入らなければ殺されていたかもしれない。そのときにフレデリックが言ったのだ。
「このジャップが!」
その言葉がニホンの人間に対する蔑称だと知っていたが、宇宙での暮らしが長く、そもそもジェスロにはニホン人としての自覚がなかった。
殴られて痛む背中を庇いながら出撃に備えて整備をしていた。
さっきからどうしてもバランサーの数値が右寄りに傾いてしまう。何度マニュアルを見返してもわからない。
「おぬし、ニホン人か?」
声のする方を見るとトメキチだった。ゆっくりとトメキチが近付いてきた。ジェスロは返事もせず作業を続けた。
機体を見上げるようにしてトメキチがつぶやいた。
「無様に右に傾いでおる」
スネークアイは静態している。
ジェスロはマニュアルから視線を上げて、トメキチを見た。
動いてもいない機体を見ただけで、バランサーの狂いがわかるはずがない。
「よいか」
トメキチは噂とは印象の違う穏やかな口調で言った。
「戦場では何が起こるか誰もわからん。じゃからバランサーというのは、戦場で何かしらの不具合があったときの辻褄合わせで初めて意味が出てくるもんじゃ。この機体は初めからどこかが狂っておるから傾くんじゃ。バランサーを最初から狂っとるもんのしわ寄せに使ってはならん」
老人はジェスロが格闘していたマニュアルのページを見てフンと鼻をならすと、そこは関係ないわい、と言って工具箱を漁り始めた。
ジェスロは老人が自分の機体をいじるのを止めもせず自分でも奇妙に落ち着いた気持ちでただ眺めていた。
「おぬし、なぜあのとき殴り返さなかった?」
作業を進めるトメキチが不意に口を開いた。さっきのフレデリックたちとの騒ぎのことを言っているのだろう。
「人も機体も少しの狂いがゆがみを生み、周りとひずみができる。あまり余計なことはしないことじゃな」
ジェスロはなにも答えなかった…。
結局、左足のかかとのケーブルの不具合が原因だった。
バランサーが全く働いていないのに機体は正常値を指した。スーツを整備していて初めての経験だった。
それから、機体の整備はトメキチに任せることにした。
機体は格段に動作確度を上げていった。数字上出力が上がったわけでもなければ、特別な部品を使ったり、装備を格別にしているわけでもなかった。しかし、戦場に出ると他機の半歩先を行くことができた。
ジェスロの戦場での動きを見た兵士からトメキチへの整備依頼が増えたが、老人はほとんど仮病を使ってそれらの申し出を断っていた。
一方でトメキチはジェスロの機体に様々なプログラムを入力していた。ジェスロは何をされているのかわからなかったので余計なことはやめてくれと言ったがトメキチは入力を止めなかった。
「ふ、ふ、邪魔にはならんて」
大気圏突入プログラムもこのとき入力されたものだった。

タイタンへの出撃が決まった。生還率の最も低い最前線への配備を告げられ兵の誰もが落胆し、怒り、悲しんでいた。家族のいる者は遺書を書き直していた。
ジェスロが機体を眺めているとトメキチがひょっこり現れた。
「ひとつ言っておく」
前置きなしで話し始めたトメキチの口調は固かった。
「このスネークアイはワシの整備した中で最高傑作じゃ。貴様がくたばってもこの機体だけは持ち帰れ。最悪ここだけは機体から引き千切ってでも持ち帰ってくるんじゃ、いいな」
そう言ってコックピット内に格納されているメインCPUとハードディスクを指差した。
そしてその後、ジェスロがトメキチと会うことはないままタイタンへ向かった…。

フレデリックの機体をワイプでディスプレイに映しておいた。
最初にもげたのは右腕だった。もげた右腕は上方に巻き上げられ、あっという間に赤く燃え上がりなくなった。
はるか上方でフレデリックの機体は隻腕のまま真っ赤な火の玉と化していた。
しばらくして左腕ももげた。大気圏への突入の衝撃ですでに二人の無線は通じない。
各機体には自決のための薬物が用意してある。
広大な宇宙で帰還不可能な状況になったり、酸欠の苦しみから解放するためだ。フレッドは薬を使えただろうか?
今度は左足がもげた。右足はまだ付いているが奇妙な方向に折れ曲がってくっついているだけだ。胴体を包む炎の色が赤から白へと変わったときディスプレイがホワイトアウトした。
ハレーションから徐々に画面が戻る。
フレデリックは焼失していた。
ジェスロはまだ生きていた。トメキチの入力したプログラムがいまもジェスロの命を繋いでいた。
機体からは悲鳴とも唸りともつかない警告音が鳴り続けている。轟音とともに焦げ臭さが鼻を突く。パイロットの間では宇宙で臭いがしてきたら終わりだと言われていた。臭いがするということは密閉が守られなければならないコックピットに何かしらの問題が起きていることを指していた。
スネークアイはもちろん他の機体も含めてスーツ系兵器が単独で大気圏突入に成功したという話は聞いたことがない。
もし、万万が一、この戦闘のデータをトメキチに渡したらあの老人は喜ぶだろうか、それとも機体の損傷を見て大きく嘆息するだろうか。
すさまじい爆発音がした。
機体内部の温度が異常に上がってきた。
何事かとプログラムを確認すると人命よりもなによりも機体の保護が最優先となっていた。機体内部の燃焼を抑えるために酸素ボンベを切り離したようだ。CPUとハードディスクを守るためパイロットの生命維持に使用していたメモリを機体の保護を優先する演算に割いていた。
地球はもうただの蒼ではなく、土や草、水の色が見えるほどに迫っていた。
激しい揺れと轟音、警告音の重奏に全身を揺さぶられながら「機体を持ち帰れ」というトメキチの声がよみがえってきた。
「あのクソジジイ…」
ジェスロは少し笑った。

to be continued 第2章 John Doe

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