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Ma.K.ノベライズ小説化「the SNAKE EYE story」 第3章 Gibeon’s Garage ~ギベオンのガレージ~

Ma.K.ノベライズ小説化「the SNAKE EYE story」 第3章 Gibeon’s Garage ~ギベオンのガレージ~

第3章 Gibeon’s Garage ~ギベオンのガレージ~

カイが村長のガスクのところまで走ってくれた。
クロウの意識が戻ったと伝えるのと、自分の乗ってきた機体を見たいと言い出したためだ。
記憶障害のクロウが機体を見てどんな反応をするか医師として純粋に興味があった。一方で正体不明の兵士と残骸とはいえ兵器が一つところに居合わせるのは危険だった。クロウの左腕にあるあのアバドン部隊のタトゥーは偽物だと思ってはいるが、危険には違いなかった。
ガスクはすぐにやってきた。
ガスクの顔を見てカイは「帰る」と申し出たが、ガスクに供をしろ、と命じられていた。
ガスクはカイがクロウの事をよく思っていないことを見抜いている。きっといざというときはカイにクロウを取り押さえさせる気だろう。そういった人間の気持ちを利用するところはいかにもガスクらしいと思った。
「機体を見たいのか?」
テーブルに腰掛け、刻まれた皺の奥からクロウをみつめるガスクの眼は鋭かった。
「そ!だって俺のだろ、アレ」
村長であるガスクに対して軽々しく答えるクロウにカイは舌打ちをしてあからさまに不快感を表した。
「いいだろう。ただし、機体に乗り込むことは許さんぞ。理由はわかるな。わしらはおまえのことをなにも知らん。突然降ってきた兵士に武器を渡すほどわしらは大らかではないんでな」
「OK!OK!見るだけ、見るだけ。踊り子には触らないでくださいってやつね」
クロウはそう言って握手を求めたがガスクは無視して立ち上がった。
「機体はギベオンのところに運び込んである」

ぽつりぽつりと人家の灯りが見える。クロウは松葉杖をついて歩き出したが難渋していたので、ガスクの有無を言わさぬ言い方でカイが肩を貸すことになった。
ギベオンのガレージまでは村を突っ切らなくてはならない。あと二十分は歩くだろう。カイは甚だ不満そうだったがガスクの命令とあって渋々クロウに肩を貸した。
カイとクロウに前を行かせて、その後をガスクとアンは歩いた。ガスクは一挙手一投足からなにかを読みと取ろうとするかのようにクロウを観察していた。
クロウは額に汗を滲ませながらも、カイをからかって遊んでいるようだった。カイははじめこそむっつりと黙っていたがクロウの言葉にだんだんと、そうだ、とか違う、とか本当か?などと一言二言返すようになっていた。
「記憶障害でもあんなに話せるものなのか」
ガスクはクロウの軽薄な様子にアバドン隊の残像が少し薄れているようだった。
「記憶障害というのは、人によって症状が違うの。便宜上、そういう名前を付けてるだけで、実際は人の思いと同じくらい傍目からはわからないものよ」
ガスクは納得したのかどうかわからないが、いつもの難しい顔で黙りこくった。

村の灯りから離れ、暗闇の中をランタンのぼんやりした明かりを頼りにしばらく行くと切り立った崖の麓にわずかに灯りが見えた。崖の向こうは谷になっていてまさに村のはずれだった。
暗闇のせいで距離感の掴めない灯りに近付くと突然目の前に人工物が現れた。使い込まれたH鋼や車のバンパーなどで組み上げられた鉄製の門だった。門の両端から人の背丈ほどの高さに鉄条網が崖までぎっしりと張られている。あたりは静かだが鉄条網から時折、ジジッと音がする。ガスクがカイに声を掛ける。
「言っておくが門と柵に触れるなよ。1200ボルトの電流が流れておる。それから柵に入っても道から出るな。地雷が埋めてある」
「マジかよ」
カイが辺りを見回した。草が短く刈り込んであるのは鉄条網に触れて燃えないようにするためだろう。鍵もかけずに出掛けるのが普通のこの村でギベオンのガレージの警戒振りは度を越していた。
「ずいぶん性格のいい奴が住んでるらしいな」
クロウは息を切らして相変わらず額に汗が浮かべながら、そう皮肉めいて笑った。
「機体ハッチを開いたのはギベオンじゃ。そうやって軽口を叩けるのが誰のおかげか考えるんじゃな」
クロウは肩をすくめた。
ガスクは門柱からコードで提げられた赤いボタンを手の平で押し込んだ。容赦ない音量でブザー音が鳴り響いた。
「誰だ!?」
どこかに取り付けてあるスピーカーから割れた音声が響く。どうやらギベオンらしい。
「わしだ。ガスクだ」
しばらくなにも応答がなかったが鉄の擦れる大きな音とともに門が開いた。ガスクが振り返った。
「行くぞ」
見えていた灯りはドアにかけられたランプだった。そのランプの掛かるガレージはひどくくたびれた木造で、背後を岩壁に接していた。嵐でも来たらバラバラになってしまいそうだった。カイは地雷が気になるのか地面ばかり見ている。
ガスクがガレージのドアを叩く。すぐにドアが少しだけ開き、ギベオンの顔が半分だけ見えた。
「何の用だ?」
「例の機体を見せてくれ」
ギベオンは視線をクロウに合わせ、足の先から頭のてっぺんまでじろじろと見たあと大きな音を立てぶっきらぼうに扉を閉じた。ドアの奥から太い鎖かなにかを引きずる音がして扉が乱暴に開け放たれた。暗がりの中、ガレージを奥へ奥へと右足を引きずりながら歩いていくギベオンの後ろ姿が見えた。
ガレージに足を踏み入れるとオイルと埃の臭いがした。
古びた壁には工具がびっしりと掛けてあるがどれも黒ずんでいた。時折抜けるすきま風は埃のにおいがした。床にはオイル缶が倒れたまま転がり、オイルだまりの跡があるがすっかり乾いて黒いシミになっている。作業台には幾枚かの図面が広げられ、その上にはバーボンの空き瓶があり、使い古したねじが目一杯に入っていた。そしてどれもが埃まみれだった。
皆が物珍しそうに辺りを見回していた。
ガスクは来たことがあるようでギベオンの後をまっすぐについて行く。小さなネズミがガレージの端を駆けていくのを見てアンは思わず短い悲鳴を上げてしまった。
皆がこちらを振り返るのでなんでもないわ、と強がった。ネズミが駆け込んだガレージの一角には、なにに使うのかわからないがらくたが積み上げてあり、それも埃をかぶっている。がらくたの山がネズミの巣になっているのかもしれないと思うとアンは悪寒がした。
天井には滑車が吊ってあり、太いロープが首を吊るような形に結ばれ吊り下がっていて不気味だった。床には重量のあるものを運ぶためのレールも敷いてあったが長い間使われていないようで塗装が剥がれ落ち、赤黒く錆びていた。動かしたら金属の擦れる嫌な音がしそうだ。
改めてギベオンの後姿を見る。エンジニアブーツはひどく汚れ、踵が剥がれかかっているし、前掛けはオイルやらなにやらで黒く汚れて、何か書いてあるちしい文字はまったく読めない。ぼさぼさの髪の毛の一本一本はワイヤーのように堅そうだったし、それを束ねるように頭に巻いているゴーグルのバンドもお世辞にも清潔とは言えなかった。
ギベオンはガレージの奥まで来ると振り返った。
「他言無用だ」
「大丈夫だ。わしから言っておく」
ギベオンは頷くと壁に掛けてある一本のレンチを引っ張った。するとガレージの壁がゆっくりと上に跳ね上がった。壁の向こうから光が漏れてきた。

壁の奥からこの村で見たこともない空間が現れた。白い床に白い壁、光沢のあるタイル張りの明瞭で無機質な空間が広がっていた。壁にはたくさんの端末が整然と並んでいる。そのディスプレイには何かの演算なのか数字や文字列が流れ続けている。
「すげえ、なんだこりゃ」
カイは目をしばたたかせていた。
それら端末からは無数のケーブルが伸びていてひとつに束ねられている。そしてその束は部屋の中央に懸架されたあの墜落してきた機体に繋がれていた。
作業用なのか無影灯に照らされたその機体は明るい室内でも一際輝いて見えた。曲面の連続で構成されたその機体は兵器と呼ぶには、滑らかすぎるとアンは思った。
「こいつは傭兵軍の宇宙用スーツ型兵器。通称スネークアイ」
機体に見とれている間に、ギベオンが白衣に身を包んで現れた。髭はそのままだがゴーグルの代わりに細い銀縁の眼鏡を掛けている。後ろのハンガーには先ほどまで身に着けていた前掛けとゴーグルが掛けられ、底の剥がれたブーツが床にきっちりと揃えてあった。いまギベオンの足元はよく磨き込まれた濃いブラウンの革靴に履き替えられていた。
清潔な白衣とコツコツと音の鳴る革靴、折り目の入ったスラックス。ギベオンは上質な研究所勤めの博士のようだった。
アンがギベオンの変わりように目が離せずにいるとギベオンが「なんじゃい、あっちを見ろ」とクロウの機体を指さした。
「宇宙用スーツのファイアーボールをベースにしとる最新鋭機だ」
ギベオンが機体の隣に立つ。よく見るとギベオンは右足も引きずっていない。
「ファイアーボールは各部が剥き出しだったが、こいつは後部機動機関とボディ側面に増加装甲を施したうえに新型の大口径エクサイマーレーザーを装備、間接視認システムと電子兵装もスネークアイ専用のものになっておる」
アンにはなにを言っているかさっぱりわからない。
「つまりどういうこと?」
「つまり、現在最高の宇宙用機体という事じゃい。まさかこいつをこの目で拝めるとはな」
「強いってことか?」
今度はカイが訊いた。
「同じスーツ系の兵器の性能で言えば敵無しじゃ。まぁ乗り手によるが」ちらりとギベオンがクロウを見た。
「少なくともこれに乗るほどなら空から墜ちてくるような間抜けはおらんはずだが」
「光栄だね、そんなにお褒めの言葉を頂戴すると」
クロウは笑って答えた。
「これ、動くの?」
アンは訊いてみた。
「いや、完全にぶっ壊れとる。直せるところは全部直したがウンともスンとも言わん」
「なんだよ、結局動かねえのかよ」
カイは心底がっかりしたようで口を尖らせた。
「さっき言った通りこいつ自体の性能は桁違いじゃ。そしてその性能を支えているのは量産のきかない一点物の贅沢な部品どもだ。こいつを見ろ」
ギベオンはスネークアイの横に置いてある作業台から一つの部品をつまみ上げた。
「こいつから取り外したこのなんでもないバルブじゃが、こんなものでさえタングステン鋼となにかの合金の削り出しで作られとる。おそらく起動中の熱や振動に耐えるためじゃろうが、大変な手間が掛かっとる。地球では作れん代物じゃ」
「なんで地球では作れないんだよ?」
カイは地球を馬鹿にされるのが嫌いだった。ギベオンは作業台に取り付けられた万力にそのバルブを挟んだ。
「いいか?」
ギベオンは万力のハンドルを回した。めいっぱい回した後に万力を緩めバルブを取り出した。眇めるようにして部品を覗き込む。
「見ろ。欠けもゆがみもなに一つない。そして…」
ギベオンはそのバルブをカイに放り投げた。カイはあわててキャッチした。
「軽い。このサイズの同じものを作ろうとしたらタングステンでは300グラムにはなる。しかしそのバルブは120グラムちょっとしかない。タングステンになにを混ぜたらそんな物が作れるのか、わしにはわからんが地球では比重が違いすぎて混ぜることができない金属を練り込んでおるんだろう」
カイはよくわからない様子だったがその軽さを感じて納得したようだった。ギベオンも話しながら少なからず興奮しているようだった。
「要するにこのスネークアイはとんでもない贅沢品だってことだ。同型全機がこんな仕様なのかはわからん。しかし少なくともこいつの製造コストはとんでもないことになっとるはずだ」
「高いってことか?いくらくらいなんだ?」
興味をそそられたのか、またカイが前のめりになって訊いた。
「この村の全員が飲まず食わずで百年働いても間に合わんような額だ」
「すげえな!」
「でも動かないんでしょ?」
アンには動きもしない機械で盛り上がる意味がわからなかった。
そのときクロウが機体に一歩近付いた。
「おい!」
ガスクがクロウを呼び止める。
「お触りなしだろ。わかってるって」
クロウが松葉杖を突いて近付く。ギベオンはその様子を眺めている。
クロウがなにかを思い出すきっかけになるのかアンはクロウの歩みをみつめた。
一歩ずつ近付くクロウ。機体まであと一歩というところでスネークアイから電子音が鳴った。
ギベオンが機体を見て驚いている。
壁に掛かったすべてのディスプレイに流れる文字列が一気に増え、画面がとても読めないような猛烈な速度でスクロールしていく。
そしてコックピットの隙間から空気が噴き出し、鯨が口を開けるようにしてゆっくりとハッチが開いた。
中を覗くとところどころ煤は残っていたが、きれいに拭われていて、計器類が光り瞬いている。
「こいつは驚いた。電源もなにもイカレとると思ったが」
ギベオンはクロウをまじまじと見た。
「このスネークアイどうやらおまえさんの専用機らしいな。生体センサーでも入っとるのか、ご主人様しか乗せんつもりらしい」
クロウも驚いているようだった。
ギベオンがクロウと一緒にコックピットを覗き込んだ。
「さっき言ったとおり、これ一機でとんでもない製造費がかかっとるはずだ。その最新機をさらに専用機にしとるってことはお前さん、とんでもない上級将校か相当のエースパイロットなんじゃないか?」
クロウが辛そうな顔をしているようにアンには見えた。動き出した愛機を見て記憶の端を取り戻そうとしているのかもしれない。
クロウの顎から汗が落ちた。記憶を取り戻すときにひどい頭痛に襲われることがあると昼間読んだ症例報告集にあった。
「大丈夫?なにか思い出した?」
クロウはここまで歩ける体ではそもそもなかった。医師としてここに来させたのは軽率だったかもしれない。
「もし…俺がエースパイロットなら…」
「なら?」
「村の娘にもっとモテるかな?」
呆れる面々と裏腹にクロウの底抜けの笑い声が部屋中に響いた。

to be continued 第4章 Festa

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